広島にゆかりのあるnextな人をお迎えし、お仕事内容や広島への思いを伺う「ひろし学び部」。第二回目は、広島ホームテレビのスポーツ部部長をつとめる園田太郎氏。9月16日のカープ戦は、今期最高視聴率を獲得したばかり。日々の野球中継から今回のリーグ戦優勝番組に至るまで、陰の制作努力をたっぷりお聞きしました!
園田 太郎(そのだ たろう) 広島ホームテレビ・スポーツ部長
1966年、福岡市生まれ。1991年、広島ホームテレビ入社。営業、報道部、制作部、コンテンツ制作部などを経て2016年、スポーツ部へ。報道部時代に制作した「東京原爆投下計画」制作で2003年ギャラクシー賞受賞。趣味は映画・演劇・プロレス鑑賞。
日々の番組制作。日々の弁当手配。
――今日はよろしくお願いします。まずは、現在の担当業務を簡単に教えていただけますか。
園田:はじめまして、こんにちは。テレビ朝日系列の広島ホームテレビから来た、園田と申します。現在の主な仕事は、野球中継のプロデューサーです。
野球中継の番組制作では大体総勢50人以上がかかわります。といっても全員同時進行ではなく、時間帯によって人数は常に上下します。運営上の最も重要なポイントは、弁当です(笑)。スタッフ全員、700円の弁当と850円の弁当で仕事の出来がまったく変わります。毎回弁当は多めの60個前後用意しています。たまに社長が黙って食べて行ったりすることがあったりまして(笑)。数が不足するとスタッフが不機嫌になって、制作事故が起きやすくなるんで気を付けています。
一応スポーツ部長という肩書きですけど、こんな感じで、実際は弁当のことで日々頭を悩ませる毎日です(笑)。
お化けコンテンツ、カープ。
――県外では広島=「球団愛の強い土地」というイメージを持っている方も多いかと思います。実際のところを教えていただけますか。
園田:おっしゃるように、広島県民はみんなカープが好きです。実は事件や事故もわりあい多い土地なのですが、それよりなにより「カープ」という熱気がありますね。
それが如実に表れているのが“視聴率”です。前提として今、全国的に見ても視聴率20%の番組というのがほぼありません。かろうじて名前を挙げられるのは「笑点」「世界の果てまで行ってQ」「行列のできる法律相談所」「ドクターX」くらい。プロ野球も地上波ではなかなか数字が取れないコンテンツです。特にセ・リーグは厳しくて、阪神だと平均視聴率は10~15%くらい。球団によっては5%くらいのところもあります。
一方、広島カープはどうか。今年の場合、地上波の143試合中100試合が平均29.8%(昨年は23.4%)。ナイターは今年32.3%。デイゲーム26.5%でした。CSファイナルに至っては43.2%、去年の日本シリーズの最高視聴率は約60%です。もはや力道山時代のプロレスというか、東南アジアに1つだけのテレビ局ではないかと錯覚するような数字の高さです。
優勝の裏には、テレビ局の日々の努力も。
――カープを通じて県内を盛り上げようと、テレビ局も一丸となって取組んでいることがよく伝わるお話でした。優勝にあわせて、準備されていることなどあれば教えていただけますか。
園田:やはり、特番ですかね。ここにいらっしゃっているみなさんは、テレビで野球の優勝特番をご覧になったことがあるかと思います。選手のビールかけとか、街のインタビューの様子をまとめたものですね。
球団の優勝が決まった9月18日、うちの放送局はなんとぶっ続けで23:30-8:00まで特番を流しました。
また、優勝の瞬間はいつやって来るかわからないので、優勝予想日近辺は毎日放送できる準備をしておくことが必要になります。
必要な作業はいくつかあります。1つが、祝勝会、ビールかけ、個別インタビュー場所の下見と確保。優勝目安日の2~3週間前くらい前には終えておく必要があります。今回の場合は、日本シリーズの下見でソフトバンク・西武・楽天戦にあわせて福岡・立川・仙台のホテルにも行きました。対戦地にあわせて近隣のホテルをたくさん予約しておき、負けがわかればその瞬間キャンセルを入れる、という作業も発生します。迷惑な話だと思われるかもしれませんが、毎年のことなので、ホテル側もある程度承知してくれています。
いい画像を撮るため、中継車も持って行かなくてはなりません。例えば品川プリンスホテルで祝勝会があると想定した場合、1階の中継車から会場の23階まで400mくらいのラインを階段に引きます。試合が終わるまではずっと待機して準備していて、優勝がないことがわかったら、その場合は撤収。車ごと引き上げて、翌日にまた現地で一から準備をし直すことになります。
ほかに必要なのは、著名人のコメント取りとスケジュール押さえです。例えばカープファンである有名タレントに打診をしたとして、優勝予想日がいつになるのかわからないので出演してもらえるタイミングの見極めが難しいんですよ。こちらとしても予定を立てることがなかなか難しい。しかし、もし映像が取れなくても規定枠の時間にはなにかしら流さなくてはならない。そういう時は、祝勝会の模様が延々と流れることになったりします(笑)
――そんなご苦労があったのですか……。広島ローカル局ではほかに、カープのキャンペーンも打っていますよね。
園田:そうですね。広島ホームテレビは「勝ちグセ。カープ!」。他、広島テレビは「完全カープ主義」、RCCだと「Veryカープ!」、TSSだと「全力応援プロジェクト」というキャンペーン名ですね。実はどの名前にも、メリットとデメリットがありまして、弊社の「勝ちグセ。」の場合、試合にもし負けると「勝ちグセじゃなくて負けグセじゃん」と言われてしまう(笑)。広島テレビさんの「完全カープ主義」も、たぶん試合の途中で中継をやめた時は「不完全」だといわれていると思います。
昨年は県内中に「とにかく優勝してくれ」という気配が漂っていました。今回のクライマックスシリーズ敗戦でその熱狂もそろそろ落ちてくるかなと思っていたら、甲子園で話題となった広陵の中村奨成君をドラフト会議で指名できたので、今のカープ人気は当分続くんじゃないかなと思っています。
――ここからは、会場のみなさんからの質問にお答えいただければと思います。
会場:日頃、番組に寄せられる視聴者反応のうち、印象深いものがあれば教えてください。
園田:優勝特番の準備としてパネルやポスターを作ると死ぬほど欲しがられます。去年も僕らは日本一になると思っていたので、20万円かけて「カープ日本一2016」というビニールパネルを作りました。ものすごいカッコイイけど、使いようがなかった(笑)。
会場:カープの視聴率が高いのは知っていましたが、今日改めて具体的な数字をお伺いし、県民の球団愛を改めて確認させられる思いでした。思いの強さはどこから来ているのでしょう?
園田:福岡出身の僕には難しい質問ですね(笑)。10年ほど前まで、カープ戦はここまでの視聴率ではなかったんですよね。たしかに10%を割るようなことはありませんでしたが、飛び抜けて高いわけでもなかった。なので、ここ数年で急激に数字が上がった印象はあります。
個人的に、球場が変わったのは大きいと思います。あの球場になって明るくなりましたよね。焼肉そのまま食える球場なんてないですもんね。
ほかに、グッズ効果も大きい。でかい工事用メガホンとか、もみじまんじゅうの帽子とか、よく見ると不思議なものを扱っていますよね(笑)。球団側もだんだん商売上手になってきている気がしますね。
――内側目線での興味深いお話がたくさん聞けました。カープを見る目が、これまでとはまた少し変わりそうです。今日はどうもありがとうございました!
聞き手、構成:松岡瑛理 (2017年11月11日取材)
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