インタビュー

視聴率は気になります。でも、最後までやりきることの方が大切です。[土井裕泰:演出家・映画監督]

視聴率は気になります。でも、最後までやりきることの方が大切です。[土井裕泰:演出家・映画監督]

広島にゆかりのあるnextな人をお迎えして、仕事の極意や地元への思いを伺う「ひろし学び部」。記念すべき第一回は、ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』『カルテット』など、数々のヒット作を手掛けてこられたTBSの監督•演出家の土井裕泰さん。広島が生んだヒットメーカーの素顔に迫ります!

土井 裕泰(どい のぶひろ)  演出家・映画監督

1988年、TBS(当時の東京放送)に入局。翌年、制作局ドラマ制作部に配属になり、以降28年間ドラマ制作に携わっている。映画『いま、会いにゆきます』(2004年)、『ビリギャル』(2015年)、ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(2016年)、『カルテット』(2017年)など、数々のヒット作を生み出し続ける百戦錬磨。

 

偶然にも、きっかけは広島出身の映画監督だった

――今回、土井さんにご登壇いただけるとのことで、「こんなすごい人が広島出身者だったとは!」といった驚きの声をたくさんいただきました。

土井:広島市中区生まれです。八丁堀の福屋まで徒歩5分という環境で育ち、まだ外野席が木製の長いベンチ席だったころの市民球場で走り回って遊んでいました。

――都会っ子ですね。

土井:昔から八丁堀のあたりには映画館がたくさんあって、両親によく連れていってもらいました。朝日会館(2009年に閉館)で、チャップリン映画のリバイバルを観た記憶があります。中学時代はRCCの試写会にせっせと応募していました。

―子ども時代に影響を受けた作品とは。

土井:偶然ですが、広島出身の映画監督の作品です。みなさんは、長谷川和彦監督の映画『太陽を盗んだ男』をご存知でしょうか。僕が高校2年生のときに出会った映画ですが、その時はじめてスクリーンの向こう側にいる「つくり手」のことを意識しました。

――そこから監督業を目指すようになられたのですか。

土井:大学進学を機に上京したのですが、当時の東京は小劇場ブームで、野田秀樹さん主宰の『夢の遊眠社』や、柄本明さん主宰の『東京乾電池』などたくさんの舞台を観に行きました。それで自分もいつのまにか演劇に携わるようになっていました。おかげで就職活動の時期が遅れまして、”大学5年生”のときに唯一内定をくれたのがTBSでした。以来30年ちかく、この仕事を続けています。

 

「2年先読みする力」が問われる仕事

――そもそも、演出家や監督を示す「ディレクター」とは、どんなお仕事なのでしょうか。

土井:よく「プロデューサーとディレクターの違い」を聞かれるのですが、建築に例えるならば、プロデューサーは「どこにどんな建物を建てるか」という土台をイチから考える人。脚本家や俳優、カメラマンなど、すべてのスタッフをコーディネートしたり、撮影期間や予算を決めたりと、全体を統括するのがプロデューサーの仕事です。一方、ディレクターは具体的なプランを考える人。いわゆる現場監督のようなものです。脚本という設計図を基にして、俳優さんにどんな芝居をしてもらうのか、どこで撮影するのか、衣装や音楽はどうするかといった「内容」にフォーカスし責任を負うのがディレクターの仕事です。

――土井さんのドラマといえば、ドラマを見ない人まで知っている超ヒット作ばかり。企画はどのようにして練られているのですか。

土井:企画を立ててからキャスティングを決める場合もあれば、内容よりも先に「Aさん主演で」とキャスティング主導でスタートすることもあります。企画づくりは放送から約2年くらい前に始めることが多いです。なので、今僕らが考えているドラマは2019年放送ということになります。

――ずいぶんと先読みするのですね。

土井:人気の俳優さんや脚本家さんにオファーする場合、「次に空くのが2〜3年先」なんてことがザラにあります。ちなみに『カルテット』は、4年近くかかってようやく撮影までこぎつけました。

――なぜ通常の約2倍も時間がかかったのですか。

土井:脚本家の坂元裕二さんにどうしても書いていただきたかったからです。何年だって待ちたくなるほど、ドラマの出来は脚本に左右されます。それと、松たか子さんをはじめとする豪華俳優陣のキャスティングにも力を入れました。みんなのスケジュールが合うのに結果的にそれくらい時間がかかったということです。

――苦労して売れっ子俳優さんをキャスティングしたのに、2年後の放送時にすっかり人気が低迷していた……なんてことはないのですか?

土井:確かに、短期間でブレイクした俳優さんを起用するのは、賭けになるのかもしれません。ただ、その人に素質や実力があるかどうかは、案外見分けられるものなんです。むしろ、2年の間にさらに成長して不動の地位を築く俳優さんも少なくありません。

――注目している若手俳優さんはいますか。

土井:そうだ、本日会場にお越しいただいた方の中に、吉岡里帆さんのご親戚の方がいらっしゃると聞きました。吉岡さんは『カルテット』でご一緒させていただいたのですが、松さんらの実力派を相手に堂々といい演技をされていました。今の若い方は覚悟があってしっかりされていますよ。最近仕事をさせていただいた、松岡茉優さんや黒木華さん、有村架純さん坂口健太郎君たちも皆若いのに浮ついたところがなく、本当に感心しました。

入局からわずか5年でディレクターに

――テレビ制作といえば、長く厳しいAD時代があるイメージですが、土井さんはどのような道のりを歩まれたのですか。

土井:入社5年間は、ADとして経験を積み、1993年に初めてディレクターとして作品に携わりました。

――わずか5年で!

土井:比較的早い方だったと思います。ただ、当時はろくに休みが取れないほど忙しかったです。「寝ないで仕事するのが美徳」みたいな時代でしたから。

――辛い、辞めたいと思われたことはないのですか。

土井:辛いことは多々ありましたが、辞めようと思ったことは一度もないです。ディレクターって幸せな仕事なんです。自分が携わった作品をたくさんの人に観てもらって、誰かの人生に影響を与えることもある。なにより、好きなことを仕事にさせてもらっているのはありがたいことです。

 

ドラマは、単なる自己表現の場ではない

――仕事をする上での決めごとはありますか。

土井:好きなこととはいえ「これは仕事」と常に意識しています。ドラマをつくることは、単なる自己表現の場ではありません。いろんな人が関わってひとつの「商品」を作っているんです。もちろん視聴率も気にします。

――やはり気にされますか。

土井:たとえ視聴率が取れなくても制作に関わるすべての人間が「やり切った」「またやりたい」と思えれば、必ず次に繋がります。大切なのは、最後までやりきることです。その作品で本当にやりたいことをブレずに貫く意志。それこそが視聴者への礼儀であり、プロとしての仕事の基本だと僕は思います。

――カッコいい……。

土井:以前、『北の国から』の演出家•杉田成道さんが「『北の国から』を続けることは苦しかった。でも“仕事”だから出来た」というようなことを書かれていて、すごく共感しました。ドラマの制作現場には、楽しいだけじゃなく、辛いこともたくさんあります。世の中のニーズや視聴者のオーダーにもちゃんと応えたうえで、自分なりの表現がどこまでできるかが勝負ですよね。

 

ターニングポイントは不朽の名作『愛していると言ってくれ』

――ご自身の成長につながったと思われる作品は何ですか。

土井:『愛していると言ってくれ』(1995年)ですかね。大変な話題になったドラマで、僕はまだ演出家としては駆け出しだったのですが、ドラマの終盤にむけて色んな意見が生まれてきて、ぶつかりあうようになった。主演の豊川悦司さんが表現したい想い、脚本の北川悦吏子さんが描きたいもの、視聴者が求めているものは何か、徹底的に話し合いました。撮影後、明け方まで打ち合わせをすることもありましたし、夜中はFAXでやり取りしていました。時代ですね。しんどかったけれど、あの経験を経ることで自分の中にも

この仕事をする上での「覚悟」みたいなものが生まれたと思います。

――近年で、成長につながった作品があれば。

土井:『カルテット』です。原作ありきのドラマが多い中で、あえてオリジナルの脚本にこだわった作品です。坂元裕二さんの素晴らしいセリフや意表をつくストーリーテリングがあって、それに十分に応えられる俳優さんたちがいる。作品のクオリティで勝負できると思ったからこそ、演出は主張しないことを心がけました。作品を見てどう解釈するかは、観ている人に委ねることにしたんです。

――と、言いますと?

土井:つまり、視聴者の想像力を信じたということ。演出とは、噛み砕いてわかりやすく伝えることだけではないし、視聴者もわかりやすいものだけを求めているわけではありません。演出家の仕事とは何かを、改めて考えさせられた作品でした。

――『カルテット』はセリフが哲学的で、独創的なんですよね。”みぞみぞする”とか、絶対出てこない言葉です。

土井:『カルテット』は厳しいセリフが多いんですよ。「志のある三流は四流だ」とか。初めて台本を読んだ時は、胸が痛かったです(笑)。一番好きなシーンは、第一話の「唐揚げにレモンをかける•かけない問題」。高橋一生さんのセリフが深いんですよ。「唐揚げにレモンをかけるというのは、不可逆なんだよ。一度レモンをかけちゃったら、もう元には戻れないでしょ」という台詞は、実は「人生は後戻りできないんだ」という大きなドラマのテーマに繋がっているんです。僕も、人生は不可逆なんだ、と常に自分に言い聞かせながら生きています(笑)

 

依頼人の期待を超えてこそ、プロである

――ここからは、事前にみなさんからいただいた質問にお答えいただければと思います。『いろいろな職業、ジャンルのドラマを手掛けられていますが、その業種について、どのようにして勉強されているのですか』

土井:事前にしっかり取材を行います。僕たちがつくるドラマはドキュメンタリーではなくフィクションです。ドラマの中で「嘘」をつく以上、リアルをちゃんと知った上でやらねばならないと思っています。

ただ勉強には限界があります。たとえばドラマ『コウノドリ』では周産期医療に関わる人たちを描いたのですが、ちょっとやそっと勉強したくらいで産婦人科のお医者さんになれるわけではないのです。でも僕たちがドラマで描くのはあくまでも「人間」です。だから「彼らが、日々どういう気持ちで仕事と向き合い、生活しているか」という日常を知ることが一番大事な「取材」だと思っています。

――次は、着物のスタイリストをされている方からの質問です。『衣装に対する思いやこだわりは、どんなところですか』

土井:衣装はすごく大事です。奥が深いです。言葉で説明がなくとも、その人の生き方や人となりをひと目で語ってしまうのですから。俳優さんの中には、役づくりのために自分で衣装を考える人もいます。満島ひかりさんが、『カルテット』で着ていた衣装も自分で集めてきた古着がかなりありました。

また、ドラマはファッションリーダー的な要素も担っています。ただし気を付けなくてはならないのが、流行だけで衣装を選ばないこと。お金がない役なのに、人気ブランドで全身を固めて、バッグや靴を毎日取り換えた瞬間に、リアルでなくなります。「この役はどういう人なのか」ということを強く意識して、衣装を決めています。

――売り込み的な質問もいただいております。『私は上京して17年間アーティスト活動をしている売れないミュージシャンです。やはり知名度がないと、主題歌に起用してもらえないのでしょうか』

(会場:一同笑)

土井:主題歌の問題はねぇ、いろいろややこしい話にもなるので……(笑)あの、よろしければ、あとでCDください。

――では、質問を変えます。これは感動した!といった主題歌にまつわるエピソードを教えてください。

土井:個人的に嬉しかったのは、『重版出来!』の主題歌をユニコーンさんに手掛けてもらったことです。

――ユニコーンさんは、まさしく広島の星ですものね。

土井:オファーをしたときちょうどアルバムを作っているタイミングで、『エコー』という曲を書いてくださいました。長年愛してきたアーティストさんが作ってくれた曲が、自分の作品のなかで流れるんです…この仕事をしていてよかったと思う瞬間ですね。

――土井さんが思う一流アーティストの共通点とは。

土井:いつも感心するのは、アーティストさんは作品の内容やテーマを自分たちで咀嚼したうえで、曲を書いてくださるんです。例えば、『カルテット』の中で「注文に応えるのが一流の仕事」というセリフがあります。注文に応えるというのは、単にオーダー通りにつくるのではなく、そこにアーティストなりの答えを示すこと。主題歌を担当してくださった椎名林檎さんは『おとなの掟』という曲で、僕らの期待以上のスゴイ仕事をしてくださいました。

 

広島人として。いつか戦争をテーマにした作品を手掛けたい

――地元ならではの質問もたくさんいただきました。『広島の人間だと実感するのはどんな時ですか』

土井:やはりイントネーションですね。俳優さんの中にも地方出身の方が多いので、僕も時々標準語がわからなくなるのですが、そんな時は、標準語のアクセントを教えてくれるアプリを頼って、修正しています。あとは、月に一度の頻度で、どうしてもお好み焼きが食べたくなります(笑)

――東京でおすすめのお店があればぜひ教えてください。

土井:祖師谷大蔵の駅前にある「お好み焼き 剛毅」さんは、近所なのでよく行きます。

――最後の質問は、広島人の願いでもあります。『今後、広島をテーマにした作品をつくるご予定はありますか』

土井:何年かかるかわかりませんが、いつか「広島」を描きたいと思っています。

多くの人にエンターテイメントという形でメッセージを発信できる仕事に携わっているわけですから、この仕事をしている以上、この時代に伝えるべきことをちゃんと形にすることは使命だと思っています。

――土井さん、本日は本当にありがとうございました。一層のご活躍を、広島人一同願っております。

聞き手、構成:両角晴香 (2017年7月5日取材)

URL
TBURL

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)

投稿情報

いろいろあるよ
Return Top